Palm Programmer's Laboratory

トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ RSS ログイン

Palm OS User Interface Guidelines/1-1

↑1 章トップへ 2 節に進む →


1-1 Palm OS のデザイン原則

 
 Palm OS アプリケーションは、ユーザーがデスクから離れているときに情報を提供できなければなりません。そのユーザーインターフェースは、最適な情報をできるだけ素早く取得できるようなものである必要があります。

 Palm OS プログラマやデザイナが、最初のうち Palm ハンドヘルドをごく小さなノートパソコンのように考えるのは良くあることです。彼らは既存のデスクトップアプリケーションのルック&フィールをそのままハンドヘルドに移そうとします。その結果、非常に複雑で、時に使いものにならないインターフェースができあがるのです。

 デスクトップアプリケーションのルック&フィールを丸移しするよりも、ユーザーがハンドヘルド上で必要としているものだけを提供した方が良い結果が出ます。ハンドヘルドはノートパソコンとは異なる目的でデザインされ、使われます。どのようなプラットフォームでも、良い UI デザインはユーザーのニーズをしっかりと把握するところから始まります。Palm OS も例外ではありません。もし単純にデスクトップのユーザーインターフェースをハンドヘルドにコピーすれば、ユーザーはフラストレーションを感じ、アプリケーションの使用をやめてしまうかもしれません。

 このセクションでは、いくつかの重要なハンドヘルドの特徴と、それがユーザーインターフェースデザインに与える影響について説明します。

  • ポケットサイズ
  • 高速でシンプル
  • 低コスト・低消費電力で高価値
  • デスクトップとのシームレスな接続

 

ポケットサイズ

 ほとんどのPalmハンドヘルドはスクリーンが小さく、キーボードはありません ―― それらは、シャツのポケットに収まるようにデザインされているのです。この小さなデバイスサイズは、アプリケーションデザインに以下の影響をもたらします。

 

アプリケーションはデータ入力を少なく

 ユーザーにデバイス上で大量のデータ入力をさせてはいけません。キーボードはないため、ユーザーは通常 Graffiti、Graffiti2、またはキーボードダイアログを使用して文字入力を行ないます。これらは有用なデータ入力方法ですが、キーボードとマウスを備えたフルサイズのデスクトップコンピュータほど便利なものではありません。外付けキーボードはありますし、いくつかの Palm ハンドヘルドには小さなキーボードが組み込まれています。しかし、これらを必須のものとみなしてはなりません。

 

メニューは非表示

 多くのデータを表示するため、メニューバーは普段は表示されません。ハンドヘルド上のアイコンをタップすることにより、メニューバーが表示されます。メニューが非表示であることにより、多くのユーザーはそれが利用可能であることに気付きません。そのため、メニューはアプリケーションの基本的な使用では必要としないような強力なコマンドだけにした方が良いでしょう。
 

ボタンツールバーはありません

 デスクトップアプリケーションの一番上では、ボタンの長い列をよく見かけます。ツールバーと呼ばれるこれらのボタンは、Palm OS プラットフォームでは理想的とは言えません。なぜなら、区別するのが困難なほどボタンが小さくなってしまうからです(図1.1を参照)。そのかわり、重要なコマンドだけに絞ってボタンを用意するようにします。

図 1.1 アプリケーションはツールバーを用意するべきではない

 

小さいことは良いこと

 スペースを節約するために、ハンドヘルドに馴染まない機能は犠牲にしましょう。デスクトップシステムでは、ユーザーはアプリケーションの機能のうち 20% を使うことに 80% の時間を費やしています。Palm アプリケーションでは上位 20% の機能だけを提供すべきです。その他の機能はデスクトップアプリケーションのためにとっておくのです。

 デスクトップシステムでは、ツールバーに新しいボタンを追加したり新しいメニュー項目を追加するのは簡単なことです。しかし Palm OSアプリケーションでは、この誘惑には抵抗しなければなりません。さもなければ画面は乱雑になり、アプリケーションは複雑で使いにくくなってしまうでしょう。

 

高速でシンプル

 Palmハンドヘルドは簡単に使えて学習も容易です。ハンドヘルドの主要な目的は生活の統合管理を簡単にすることなので、学習曲線は最小であることが望まれます。ユーザーは Palm ハンドヘルドを取り出して、トレーニングや教育、アプリケーションの紹介なしで(立ち往生することなく)、5分以内に基本的な使い方ができるようでなければなりません。

 このことはデスクトップシステムとは対照的です。デスクトップシステムも簡単に使えるようにデザインされていますが、デスクトップには新しいユーザーは学習に1〜2日要するものだというパラダイムがあります。

 Palm ハンドヘルドは素早く簡単に使えなければならないため、アプリケーションデザインでは以下の点が重要になります。

 

体感スピードが重要

 デスクトップでは、ユーザーはアプリケーションの起動に数秒かかっても気にしません。なぜなら、長時間そのアプリケーションを使うつもりだからです。一方、ハンドヘルドでは、ユーザーは手早くなにかの情報を参照し、すぐに日常生活に戻るという行動を1日に何度も繰り返します(図 1.2 参照)。

図 1.2 正反対の使用パターン

情報源:Palm 社ユーザー調査

 このような突発的なユーザーの使用にアプリケーションを最適化しましょう。覚えておくべきなのは、必要な情報を見つけるのに30秒余分に費やすのは、デスクトップコンピュータを3時間使っている場合は我慢できても、ハンドヘルドを使っていてそれが終わったら電源を切るという場合には我慢ならないものなのです。

 大雑把に言って、誰かと電話をしている最中に予定を入れたり電話番号を検索したりできなければなりません。可能性を含めた優先度は以下のとおりです。

  • 重要なコマンドを素早く実行する
  • 重要な画面に素早く移動する
  • 重要なデータ(たとえば電話番号)を素早く検索する

 

必要なステップは最小に

 重要な情報に辿り着くまでのステップ数を最小にしましょう。もっとも重要な情報はアプリケーションの最初の画面に表示します。例えば、予定表では起動時にその日のカレンダーか予定を表示します。これは、ほとんどのユーザーは8割方現在のスケジュールや予定を見るために予定表にアクセスするからです。

 ユーザーが必要とする情報を素早く見つけられるように、乱雑さを取り除きましょう。十分な情報の提供と画面の混在との間でバランスを取る努力をするのです。

 ユーザーがもっとも頻繁に実行する作業は、最初の画面にコマンドボタンとして配置します。能率の上がる作業は素早く簡単に実行できるべきです。

 画面上のボタン数は注意深く決めましょう。

  • 画面上のボタンが少ないと、その製品の使い方を学ぶ時間は短くて済みます。ボタンが多すぎると、ユーザーは最終的にボタン配置を覚えるまでの間、ボタンをつつきまわして過ごすことになります。
  • 一方、頻繁に使用されるボタンだけを画面に配置することにより、基本的な機能の習得に要する時間を減らすことができます。

 「4 コマンドの実行」では、コマンドボタン数の選択についてより詳細に扱っています。

 

タップを最小限に

 データのほとんどの情報は、スタイラスによる最小限のタップ ―― 1回か2回 ―― でアクセスできるようになっているべきです。

 デスクトップにおけるユーザーインターフェースは通常、全てのコマンドが同じ頻度で使用されるかのように表示されるデザインになっています。しかし現実には、ほとんどのコマンドは滅多に使われないのに対して、いくつかのものは頻繁に使用されます。同様に、いくつかの設定はその他のものより頻繁に使用されます。Palm ハンドヘルドでは、より頻繁に使用されるコマンドや設定は、より簡単に見つけたり実行できるようになっているべきです。

  • 頻繁に実行されるソフトウェアコマンドは、タップ1回でアクセスできるようになっているべきです。
  • 頻繁に実行されない、あるいは危険なコマンドは、より多くのユーザーアクションが必要になっているべきです。

 表 1.1 に、Date Book アプリケーションにおけるユーザーアクションの頻度がどのようにアクセシビリティにマップされるかを示します。

表 1.1 操作の頻度

頻度 アクセシビリティ
1日に何度も その日のスケジュールや
タスクをチェックする
タップ1回
週に何度も 正時から始まる
1時間の会議を設定
タップ1回,
インプレイスで入力
月に数回 週次の会議を設定
(繰り返しの予定)
タップ数回,
二次ダイアログボックス

 タップ回数を減らすこの作業は、果てしないものになりかねません。他のガイドラインとのバランスをとる必要があります。例えば、ボタンの使用は通常コマンド実行に要するタップ回数を減らしますが、ボタンを増やし過ぎると画面が混雑しインターフェースに混乱を持ち込むことになります。

 一部のデザイナは、タップ回数を減らすというたった1つの目的のためだけに特定の画面要素の挙動に関するガイドラインを破ります。UI 要素は、そうしない適切な理由がない限り、ユーザーが予期したとおりに動作するべきです。タップ回数の最小化は、通常ガイドラインを破る十分な理由ではありません。

 

一貫性を保ちましょう

 一貫性は、ユーザーが意識していなければならない物事の数を減らすことでアプリケーションの学習に要する時間を減少させます。ハンドヘルドを簡単に使うためのルール全体をユーザーが暗記していなければならないような状態にすべきではありません。例えば、上向き矢印の挙動が画面ごとに異なるべきではありません。

 可能ならば、アプリケーションをハンドヘルドの組込みアプリケーションと調和させましょう。既に良く知っているアプリケーションのインターフェースに類似していれば、ユーザーはそのアプリケーションをどうやって操作すれば良いかを知っており、素早く学習することができます。

 

頻繁な作業は最適化を

 多くのユーザーは、ほとんどの場合その日のスケジュールを確認するために Date Book を起動します。Date Book はこの作業を支援します。当日のスケジュールを表示するだけでなく、一部の時間帯を非表示にしてでもその日の全ての予定を表示しようとします。例えば、午前8時と午後3時、および午後8時に予定が入っているとします。Date Book はユーザーがスクロールをしなくても最後の予定を見られるように、3つの予定全てを表示します。このために、予定の入っていない午後4時〜午後8時の時間帯は隠されます(図 1.3 参照)。

図 1.3 Datebook カレンダーの最適化

 同様に、アドレス帳は多数の連絡先の表示を最適化します。これは、多くのユーザーが多くの連絡先リストを持つためです。アドレス帳では連絡先を複数のカテゴリに分け、選択したカテゴリに含まれる連絡先だけを表示できるようになっています。また、メイン画面には検索フィールドが備わっていて、文字入力をすることで目的の連絡先へのナビゲーションが可能になっています。

 アプリケーションを頻繁に使用するユーザー向けの強力な機能を検討しましょう。これらの高度な機能は簡単にアクセス可能であるべきですが、邪魔になってはいけません。例えば、

  • Date Book で文字や数字を入力し始めると、Date Book はユーザーが新しい予定を設定しようとしていると判断し、その手助けをします。ただし、Date Book には初心者ユーザーに予定の作成方法がわかるよう、「新規」ボタンが備わっています。
  • アドレス帳はハードボタンを長押しすることで名刺のビームを行ないます。これも初心者ユーザーがいずれ発見することになるパワーユーザー向けの機能です。

 

低コスト・低消費電力で高価値

 これまでのハンドヘルドは、コスト高でバッテリ消費が激しかったため、部分的に失敗してきました。このような理由から、Palm ハンドヘルドの2つの重要なデザイン目標は手頃な価格帯とバッテリの長時間持続になりました。多くの Palm ハンドヘルドは容易に入手でき、安価な AAA(訳注 : 単4)電池で動作し、バッテリが1ヶ月持つことも珍しくありません。

 低コストとバッテリの長時間持続を維持することは、ハードウェアコンポーネント選びのキーファクタです。これらのコンポーネント選択が、翻ってアプリケーションデザイン上の決定に影響を及ぼします。

  • いくつかの Palm ハンドヘルドは、競合する他のハンドヘルドより低質なスクリーンを備えています。これは、その方がバッテリ消費が少なく、結果として電池交換の頻度が減るからです。
  • プロセッサも、速度より消費電力の少なさで選択されます。ARM ベースの高速なデバイスも利用できるようになっていますが、既存のPalmハンドヘルドの多くはクロックスピード 16 MHz 〜 33 MHz 程度プロセッサを搭載しています。
    初期の Palm ハンドヘルドのデザイナは、低速なプロセッサの方がバッテリの持ちが良いのだから、実際の演算速度よりも“体感速度”の方が重要だと感じました。体感速度は、ユーザーが感じる全体的な速度です。もしユーザーが Palmハンドヘルドを使って、競合する他のハンドヘルドよりも素早くその日の予定を確認できるのであれば、プロセッサのスピードは問題ではありません。
  • Graffiti 文字認識ソフトウェアもバッテリ問題の影響を受けた設計上の選択です。初期の Palm ハンドヘルドの設計中、ユーザーは自然な手書き文字認識をうるさく要求していました。しかし、自然な手書き文字認識はより強力なプロセッサと多くのメモリを必要とし、結果としてより大きなバッテリを要求します。これら全てに加え、ハンドヘルドは重くなり、市場的にはコストが高過ぎるものになったでしょう。Palm のデザイナはそうするかわりに、バッテリが長持ちするまあまあの手書き文字認識に満足してくれることに賭けたのです。

 ハンドヘルドの発展により、初期Palmハンドヘルドのデザイナによるこれらの選択は、かつてそうであったほどには妥当ではなくなりました。例えば、いくつかのデバイスは AAA (訳注 : 単4)電池を使うかわりに充電可能なリチウムイオンバッテリを内蔵しています。ユーザーは1日の終わりに充電器の上にハンドヘルドを乗せておくだけで、バッテリの持ちを心配する必要はありません。これらのハンドヘルドではバッテリの持ちを最大化することが重要ではないため、高解像度スクリーンや高速なプロセッサを使用することができます。

 

ユーザーコストを抑える

 アプリケーションはバッテリの持続時間を最大化することでユーザーコストを抑える手助けをすべきです。バッテリの持続時間を最大化するには、電力消費の激しい処理の実行に関して十分な検討をするようにします。シリアル通信や赤外線通信、サウンド再生、オートオフ機能の無効化、アニメーションなどはどれも多くの電力を消費します。アプリケーションでこれらの処理をしなければならない場合、できるだけ電力消費が少なく済むようにすべきです。例えばシリアルポートをオープンしたら、使い終わり次第すぐにクローズするべきです。

 充電可能なバッテリを持つハンドヘルドのユーザーにとってはバッテリの持続時間は重要ではない、という誤った判断をしないで下さい。リチウムイオンバッテリは2本の AAA(訳注 : 単4)電池よりも持たない場合があります。多くのユーザーは充電無しで数日過ごせる便利さを評価します。出張で一度に何日も充電器から離れるユーザーもいるでしょう。そういったユーザーの利便性を尊重すべきです。

 バッテリの持続時間には、ユーザーインターフェースデザイン上の選択よりもプログラミング上の選択の方がより大きく影響します。消費電力量を抑えるためのプログラミングのコツについては、Palm OS Programmer's Companion を参照して下さい。

 

デスクトップとのシームレスな接続

 デスクトップとの接続は、Palm OS プラットフォームの不可欠なコンポーネントです。ハンドヘルドには、デスクトップコンピュータと接続するクレードル、および“ワンボタンで”全てのデータのバックアップやデスクトップとの同期を行なうためのデスクトップ用ソフトウェアが付属してきます。

 多くの Palm OS 向けアプリケーションには、デスクトップ上に対応するアプリケーションがあります。ハンドヘルドのアプリケーションとデスクトップのアプリケーションでデータを共有するためには、コンジットを作成しなければなりません。コンジットは HotSync 機構に追加するプラグインで、HotSync ボタンを押した時に実行されます。コンジットはデスクトップ上のアプリケーションとハンドヘルド上のアプリケーションの間でデータをデータの同期をとります。作成するコンジットは、いくつかの異なる状況を処理できなければなりません。

  • 1つのハンドヘルドが複数のデスクトップコンピュータと同期するかもしれません。
  • 複数のハンドヘルドが1つのデスクトップコンピュータ上の異なるユーザーと同期するかもしれません。
  • データはデスクトップ上でもハンドヘルド上でも入力される場合があります。

 コンジットはユーザーの介入なしで動作しなければなりません。ユーザーはデバイスの同期処理中にデスクトップ画面を見ていなければならないわけではありませんし、デスクトップ画面のそばにいなければならないわけでもありません。コンジットはどのレコードが対応しているかを判断し、全ての要素を考慮した上で、どのレコードをデスクトップとデバイスの間でコピーするかを自分で決めなければなりません。

 


↑1 章トップへ 2 節に進む →